村田沙耶香
1979年生まれの小説家、エッセイスト。
受賞歴
2003年、『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞受賞。
2009年、『ギンイロノウタ』で第22回三島由紀夫賞候補。
2009年、『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞。
2010年、『星が吸う水』で第23回三島由紀夫賞候補。
2012年、『タダイマトビラ』で第25回三島由紀夫賞候補。
2013年、『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。
2014年、『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞。
2016年、『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
2016年の『コンビニ人間』が芥川賞を受賞したことが記憶に新しい。
徹底した「現実」を描いた『コンビニ人間』
『コンビニ人間』には、徹底した現実が描かれている。
大学卒業後、就職せずにコンビニのバイトを続け、18年をコンビニで過ごしている。
彼氏いない暦=年齢。
彼女は、コンビニで働いているときにだけ、「世界の部品」になれたような気持ちになる。
正社員で働くことが難しい現代において、
この本の主人公は、どこにでもいる。(これが重要!)
しかし、どこにでもいるからこそ、
普通に働いて普通に結婚している人の目には映らないのではないか。
そもそも「普通」とは何か?
私の持っている辞書にはこうある。
「普通」
いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであること。他と特に異なる性質を持ってはいないさま。
この本が、衝撃的だといわれた理由はここにあろう。
つまり、「普通」の考え方が、人によって違うことを明示したのだ。
意味にある「どこにでもある」「ありふれた」というのは、
一昔前までは、確かに「普通に働いている人」や「普通に結婚している人」
に焦点が当てられた言葉なのかもしれない。
しかし現代では、
「働かない」「結婚しない」という選択肢が”普通に”あり、
それを選択することが「普通」になってきている。
人の持つ「普通」の概念が、千差万別なものへと変わったのだ。
実際にコンビニで働いていたという村田沙耶香。
実体験に、「普通」というテーマを与え、小説に昇華した。
対して、非現実を現実として描く『消滅世界』
非現実を現実として描くとは何か。
未来を描いている(のかもしれない)と思わせる、不思議な作品がある。
それが、『消滅世界』だ。
この小説の中では、
人間が性交を行わなくなった社会が描かれる。
人と人との直接的な接触は「汚い」「恐ろしい」とされ、
こどもは体外受精で生まれる。
そこでは夫婦の性交はありえず、
いまでは「不倫」とされている関係の男女が、
いまでは「恋愛」とされている行為を楽しんでいる。
恋愛の対象は人間だけにとどまらない。
アニメのキャラクターに恋をし愛している。
『消滅世界』のなかでは、恋愛のなかにおいて、
人間とアニメキャラクターの間になにもない。
どちらも「普通」を描いているということ
コンビニ人間の現代における「普通」
消滅世界の未来における「普通」
それぞれどちらも「普通」について描かれている。
そして、そのどちらもに「普通」から離れてしまう人が描かれる。
そもそも普通とはなにか。
そもそも普通はあるのか。
現実も非現実も、リアルに描き、問いを投げかける唯一無二の小説家である。