小説 文学

太宰治『小説の面白さ』〜「面白くない」と言うことで面白くなる太宰の魅力 〜

投稿日:2017年3月12日 更新日:




太宰治は常におどけている。

彼の『小説の面白さ』という文章を

読めば、彼が何故おどけ続けたのか、

わかるような気がする。

「小説と云うものは、本来、女子供の読むもので、いわゆる利口な大人が目の色を変えて読み、しかもその読後感を卓を叩いて論じ合うと云うような性質のものではない」

と冒頭で、太宰は断言する。

小説というものを難しく捉えられてしまえば、

太宰の「おどける」場所が失われてしまう。

まるでそれを恐れているかのようだ。

さらに、こうとまで言う。

「襟を正しただの、頭を下げただのと云っている人は、それが冗談ならばまた面白い話柄でもありましょうが、事実そのような振舞いを致したならば、それは狂人の仕草と申さなければなりますまい。」




こうして太宰は、小説の、

あるいは太宰自身のハードルを下げていく。

この辺がなんとも上手いのが太宰治である。

その態度は一貫し、例え話に続く。

仕事に行く支度をしながら、亭主が女房に、

「この頃どんな小説が面白いんだい?」

と興味もないのに聞く。

亭主は女房の「ヘミングウェイ」という答えを聞き、

適当に「ふむ」と言い、仕事に出かける。

その夜、亭主はサロンで、

女房から聞いたばかりの小説について、

知ったかぶりをしながら語るのだ。

太宰曰く、
「小説と云うものは、そのように情無いもので、実は、婦女子をだませばそれで大成功。」

余談として、最後にこんな話がある。

太宰が島崎藤村の『夜明け前』を読んで、

眠くなって寝た。

その日、太宰はその小説とは何ら関係のない夢を見た、のだという。

因みに、島崎藤村は『夜明け前』完成のために、10年かけた。

その事実を後になって知った太宰は、

「ふうん」としか、思わなかったとしている。

この文章は、

「その作品の完成のために十年間かかったと云うことでした。」

と、あっさり終わる。

小説を「面白くない」と言うことが、

太宰の手にかかれば、

小説の面白さを一番に教えてくれる言葉にかわる。

太宰の魅力ここにあり。



-小説, 文学
-

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。

関連記事

【町田康のインスタグラムがおもしろい!】町田康と猫と犬。

町田康とは? 大阪府堺市出身。 1981年 パンクロックバンド「INU」のボーカリストとして アルバム『メシ喰うな!』で歌手デビュー。 デビューから3ヶ月程で解散したが、 日本のパンクロックにおいて、 …

小説家志望者が社会言語学を学ぶべき理由。『日本語は「空気」が決める~社会言語学入門~ (光文社新書)』から小説における言語共同体を考察する。

「文は人なり」と「アイデンティティ」 「文は人なり」という言葉がある。 その人が使う言葉が、その人を表す。 言葉と人との同一性だ。 同一性というと、アイデンティティという言葉もある。 アイデンティティ …

文章がうまく書けない悩みに、物書きの必需品『言葉選び実用辞典』

物書きに必要なもの 物を書く上で必要なものは何だろうか。 究極に言えばそれは、紙とペンだけである。 現代で言えば、パソコンがあれば事足りる。 しかしながら、その必要最低限の物だけでは、 自分から出てく …

志賀直哉『暗夜行路』は恋愛小説ではない。志賀直哉の文体とは?

志賀直哉『暗夜行路』は恋愛小説ではない。 志賀直哉『暗夜行路』は、当時小林秀雄などによって恋愛小説という批評を受けた。 しかしこの小説を単に「恋愛小説」と括ってしまうのは、あまりに勿体無い。 実際、志 …

『こころの処方箋』河合隼雄の著作、名言から、生きる秘策を学ぶ。

河合隼雄『こころの処方箋』 河合隼雄とは? ●1928年、兵庫県生まれ。 ●京都大学数学科卒業後、スイスの「ユング研究所」に留学。 ●京大名誉教授。 ●「国際日本文化研究センター」所長。 ●日本におけ …