私小説とは?
私小説(ししょうせつ、わたくししょうせつ)は、
日本の近代小説に見られた作者が直接に経験したことがらを素材にして書かれた小説。
心境小説と呼ぶこともあるものの、私小説と心境小説は区別されることがある。
日本における自然主義文学は、私小説として展開された。
私小説というと、なんだか湿っぽく古臭いというイメージがあるのではないか。
私も今から紹介する小説に出会うまではそうだった。
私小説のおもしろさは、一度ハマってしまうと抜け出せない。
記憶と虚構の相交える最高の世界がそこにはある。
さて、前置きはこの辺にして、
『赤目四十八滝心中未遂』車谷長吉
内容紹介
文壇を騒然とさせた第119回直木賞受賞作。
アパートの一室で、「私」は来る日も来る日も、モツを串に刺し続けた。尼ヶ崎のはずれにある、吹き溜まりの町。向いの部屋に住む女「アヤちゃん」の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」―ー。二人の逃避行が始まる。
救いのない人間の業と情念。圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の姿を描き切った傑作。異色の私小説作家・車谷長吉の代表作。
解説・川本三郎
2003年に荒戸源次郎監督、寺島しのぶ出演で映画化。
現代私小説家の第一人者であろう車谷長吉の直木賞受賞作。
私はこの作品で完全に私小説の虜となった。
車谷の文体のかっこよさ。
描かれているのは「どん底」。
これを読まずして現代私小説は語れまい。
『小銭をかぞえる』西村賢太
内容(「BOOK」データベースより)
女にもてない「私」がようやくめぐりあい、相思相愛になった女。しかし、「私」の生来の暴言、暴力によって、女との同棲生活は緊張をはらんだものになっていく。金をめぐる女との掛け合いが絶妙な表題作に、女が溺愛するぬいぐるみが悲惨な結末をむかえる「焼却炉行き赤ん坊」を併録。新しい私小説の誕生。
西村賢太といえば、芥川賞を受賞し映画化もされた
『苦役列車』が代表作だとされている。
しかし私は、この『小銭をかぞえる』こそをおすすめしたい。
圧倒的なダメ人間が繰り広げる圧倒的なダメさ加減。
そこには不快感を超越したおもしろさがある。
古臭い文体のなかに現代用語を散りばめ、
主人公に対して女性は常に新しい言葉を発することに、
西村賢太の文体のおもしろさがある。
『根津権現裏』藤澤清造
内容(「BOOK」データベースより)
根津権現近くの下宿に住まう雑誌記者の私は、恋人も出来ず、長患いの骨髄炎を治す金もない自らの不遇に、恨みを募らす毎日だ。そんな私に届いた同郷の友人岡田徳次郎急死の報。互いの困窮を知る岡田は、念願かない女中との交際を始めたばかりだったのだが―。貧困に自由を奪われる、大正期の上京青年の夢と失墜を描く、短くも凄絶な生涯を送った私小説家の代表作。
長い間、文壇から忘れ去られていた藤澤清造。
彼の作品を復活させたのは、西村賢太。
西村氏は貧窮しながらも
藤澤清造の作品を再度世に送り出そうとした。
そして、
これはそんな西村賢太の努力の末に出版された
彼が愛してやまない作家の代表作。
壮絶な人生のなかに、確かに笑いがある。
西村賢太の生みの親のような作品。