小説 文学

『コンビニ人間』村田沙耶香 この芥川賞受賞作を読みながら考えるべき自分への「問い」

投稿日:2017年3月15日 更新日:




第155回芥川賞受賞作

『コンビニ人間』著:村田沙耶香

36歳未婚女性、古倉恵子が主人公だ。

大学卒業後、就職せずにコンビニのバイトを続け、18年をコンビニで過ごしている。

彼氏いない暦=年齢。

彼女は、コンビニで働いているときにだけ、「世界の部品」になれたような気持ちになる。

正社員で働くことが難しい現代において、

この本の主人公は、どこにでもいる。(これが重要!)

しかし、どこにでもいるからこそ、

普通に働いて普通に結婚している人の目には映らないのではないか。

そもそも「普通」とは何か?




私の持っている辞書にはこうある。

「普通」

いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであること。他と特に異なる性質を持ってはいないさま。

この本が、衝撃的だといわれた理由はここにあろう。

つまり、「普通」の考え方が、人によって違うことを明示したのだ。

意味にある「どこにでもある」「ありふれた」というのは、

一昔前までは、確かに「普通に働いている人」や「普通に結婚している人」

に焦点が当てられた言葉なのかもしれない。

しかし現代では、

「働かない」「結婚しない」という選択肢が”普通に”あり、

それを選択することが「普通」になってきている。

人の持つ「普通」の概念が、千差万別なものへと変わったのだ。

いや、

ここで一旦考え直してみたい。

昔から、みんなにとっての「普通」なんてなかったのではないか。

一昔前までは、建前を気にして、「普通」をみんなで作り上げてきたのではなかったか。

「男なんだから」「女なのに」「年上なのに」「年下だろ」

そんな言葉がありふれていて、

そして殆どの人が、その区別を当然のものとしてきた時代があったのではなかったか。

現代はどうだろうか。

身近な例を挙げれば、

都知事に女性初の小池百合子氏が当選。

また、転職が”普通”となり、

「年下の先輩」「年上の後輩」は”普通”に。

そんな社会になってきた。

「普通」の概念が捻じ曲がり、今、社会は様々な局面で混乱している。

そんななかで私たちに求められているのは、

この『コンビニ人間』の古倉恵子が生きながら示してくれる、

自分にとっての普通の生き方だろう。

とうぜんそうした生き方は楽ではない。

周りからの視線や言葉。

どんなに自分が強い意志を持っていても、他人がその意志を壊しにくるかもしれない。

この本で主人公・古倉恵子は、その狭間を生きている。

その生きる姿は、現代人に求められた姿を現してくれる。

しかし、古倉恵子は強くない。人間だから。

だから時には、現代人に求められた姿ではなくなったりもする。

 

そうしてこの本は現代の実存を、軽妙な文体で問う。

私たちはこの本を読み終わった後に、

その古倉恵子の生き様から、

何を問われたのか

自分と向き合って考えてみなければならない。







-小説, 文学
-, ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。

関連記事

Googleのロゴがハッサン・ファトヒーに。その建築家のコトバとは?

3/23 Googleのロゴが、ハッサンファトヒーに変更された。   ハッサン・ファトヒーとは?   1900年3月23日~1989年11月30日。 エジプトのアレクサンドリア出身 …

中原中也はイケメンか 大岡昇平『中原中也』

  中原中也と聞くと、 どのような姿を思い浮かべますか。 暗いハットの下に光を帯びたモノメニアックな目。 スーツ姿で寝癖の付いた髪。 幼年時代の尖った耳。 おそらくこの3つのうちどれかであろ …

【町田康のインスタグラムがおもしろい!】町田康と猫と犬。

町田康とは? 大阪府堺市出身。 1981年 パンクロックバンド「INU」のボーカリストとして アルバム『メシ喰うな!』で歌手デビュー。 デビューから3ヶ月程で解散したが、 日本のパンクロックにおいて、 …

「うつ」と「文学」夏目漱石は、うつ病だった? 鬱がもたらした文学上の功績

文学の歴史を見ていると、 うつ病やノイローゼであった作家の多さに驚かされる。 そもそも、うつ病、ノイローゼとはなんなのか。 どうして作家にそれらが多いのか。 例えば、文豪・夏目漱石。 彼は、33歳から …

又吉直樹2作目『劇場』発表!芥川賞『火花』に続く「又吉効果」で、今、文芸誌がアツイ! 

芸人ピース又吉直樹氏の『火花』が文學界に掲載され、 増刷を2度繰り返したことで、 累計部数が同誌史上最高の4万部に達した。 当初部数は1万部。 発売からわずか2日で4倍の部数に達したことになる。 純文 …