梨木香歩『ピスタチオ』
内容(「BOOK」データベースより)
緑溢れる武蔵野にパートナーと老いた犬と暮らす棚(たな)。ライターを生業とする彼女に、ある日アフリカ取材の話が舞い込む。犬の病、カモの渡り、前線の通過、友人の死の知らせ…。不思議な符合が起こりはじめ、何者かに導かれるようにアフリカへ。内戦の記憶の残る彼の地で、失った片割れを探すナカトと棚が出会ったものは。生命と死、水と風が循環する、原初の物語。
『ピスタチオ』が小説家志望者の指南書である理由
この小説における主人公は、棚。
ライターの職業についている。
しかし、ライターとしては、クライアントの求める原稿を書き続ける日々。
彼女はアフリカに導かれ、次第に自分が書きたいこと「物語」を書き始める。
この話、似たようなことをどこかできいたような。
そう。思い出すのは西加奈子だ。
西加奈子といえば、直木賞を取り、『サラバ!』がベストセラーとなったことが記憶に新しい。
そして「棚」と同じように、自分が書きたいことを書けないことに対して悶々とした思いを抱いていたという。
『ピスタチオ』の構成
この小説は、ライターとして日々を送るなか、
アフリカに取材の話が舞い込む。
そこで彼女は書きたいことを見つけていき、
なんと最後には、「棚」が書いた物語が掲載されている。
つまり、ライター(小説を書きたいと思っている人)が、
その題材の取材に行き、書いた小説をも読むことができる。
小説家志望者にとっては、どうやって取材をし、
どうやってその体験を小説という形に落とし込むのか。
といったことが、梨木香歩という一流小説家が手本を見せてくれているような小説なのだ。
一読すれば、あらゆるヒントを得ることとともに、
執筆に対する意欲も獲得するであろう。
そして梨木香歩という作家を敬愛せずにはいられなくなる。
そこで、『ピスタチオ』以外の梨木香歩のオススメ小説も紹介しておく。
『西の魔女が死んだ』
内容紹介
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。
『家守綺譚』
内容(「BOOK」データベースより)
庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没数多…本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の記録である。―綿貫征四郎の随筆「烏〓苺記(やぶがらしのき)」を巻末に収録。
『私たちの星で』
内容(「BOOK」データベースより)
ロンドンで働くムスリムのタクシー運転手やニューヨークで暮らす厳格な父を持つユダヤ人作家との出会い、カンボジアの遺跡を「守る」異形の樹々、かつて正教会の建物だったトルコのモスク、アラビア語で語りかける富士山、南九州に息づく古語や大陸との交流の名残…。端正な作品で知られる作家と多文化を生きる類稀なる文筆家との邂逅から生まれた、人間の原点に迫る対話。世界への絶えざる関心をペンにして、綴られ、交わされた20通の書簡。
エッセイも見逃せない『ぐるりのこと』
内容(「BOOK」データベースより)
旅先で、風切羽の折れたカラスと目が合って、「生き延びる」ということを考える。沼地や湿原に心惹かれ、その周囲の命に思いが広がる。英国のセブンシスターズの断崖で風に吹かれながら思うこと、トルコの旅の途上、ヘジャーブをかぶった女性とのひとときの交流。旅先で、日常で、生きていく日々の中で胸に去来する強い感情。「物語を語りたい」―創作へと向う思いを綴るエッセイ。
彼女の作品には海外がひとつの舞台となるものも少なくない。
彼女自身がフィールドワークを行い、物語を作っていく。
小説はその結晶として、エッセイはその過程を垣間見れる作品としても楽しむことができる。